このページの目次
休眠担保とは
相続手続きに際して登記簿を確認していると、明治・大正・戦前・昭和(戦前・戦後直後)時代の古い抵当権や質権を見つけることがあります。
このような抵当権や質権は、休眠担保と呼ばれています。
「休眠」とはいっても、登記上は有効な抵当権です。
このような抵当権は実際上はもはや債権の担保としては機能していないことが多いですが、だからといって不動産の所有者(登記名義人)や登記所が勝手に抹消手続きをすることはできません。
この休眠担保(長期間放置されていた抵当権)を抹消する場合は一般の抵当権と同じように、不動産の所有者が作成した登記申請書とともに抵当権者が持っている弁済証書や登記済証といった書類を提出しなければなりません。
つまり、抵当権を抹消するにはいくら古くても、抵当権者の協力が不可欠であるということになります。
とはいっても、明治~昭和時代の古い抵当権の場合、登記されている抵当権者に相続が生じたり、会社が存在しなくなっていることも多く、抵当権者が持っているはずの書類を用意できない・抵当権者の協力が得られないということもしばしばです。
そのため、抵当権者の所在がわからない場合に不動産の所有者(登記名義人)だけで抹消手続きができる特例的な制度があります。
ただし、下記でご案内のとおりその特例的な制度を利用するにはいくつかの要件をクリアしている必要があり、その制度を利用できないこともあります。
そのような場合は裁判を起こして勝訴判決を得るなどして抵当権を抹消していくことになります。
所有者だけで休眠担保を抹消する方法
抵当権者の所在が分からない場合に、所有者だけで抵当権を抹消する方法は次の4つです。なお、④は会社や法人にのみ適用があります。
- 完済したことを証明する書類を提出する方法
- 債権全額を供託する方法
- 裁判の勝訴判決を得る方法
- 法人の所在が不明なため、所有者だけで抵当権の抹消登記をする方法
①完済したことを証明する書類を提出する方法
この方法は、抵当権者の所在が不明ではあるが、抵当権者(債権者)から交付された借入債務の全額を弁済してことを証明する書類などが提出できる場合に利用できます。
必要書類
次の書類等が必要になります。
- 抵当権者の所在が不明であることの証明書
- 債権が完済されていることを証明する書類
- 契約書関係の書類
このうち、完済していることの証明・契約関係書類についてですが、債務を完済しているのであれば、債権者から領収書が交付されたり契約書関係の書類が返却されます。
そのため、この手続きでは、その領収書や借入の際の契約関係の書類が必要となるのですが、このような書類が手元にないからこそ抵当権抹消手続きができない事例が多く、この手続きの最大のネックといえます。
そのため、あまり利用されていない制度でもあります。
②債権全額を供託する方法
この方法は、抵当権者の所在が不明ではあるが、弁済期から20年が経過しており、利息や遅延損害金を含む債権の全額を供託することができる場合に利用できます。
必要書類
次の書類等が必要となります。
- 抵当権者の所在が不明であることの証明書
- 債権の弁済期を証明する書類
- 供託をしたことを証する書類
③裁判の勝訴判決を得る方法
抵当権者が不明であっても供託する方法が使えなかったり、抵当権者が判明していても登記手続きに協力してもらえない場合に、裁判によって抵当権抹消登記についての勝訴判決を取得した上で、登記手続きをする方法です。
債権額や不動産の価額によって地方裁判所もしくは簡易裁判所に訴えを提起します。
訴訟の場合は、事案により選択肢が異なってくるので、事案ごとに検討していく必要があります。
④法人の所在が不明なため、所有者だけで抵当権の抹消登記をする方法
抵当権者である法人(株式会社等の会社)の所在が不明な場合は、次の要件を満たすと
所有権者だけで抵当権抹消登記を申請することができます。
- 抵当権者が法人(会社等)であること
- 法人の解散の日から30年経過していること
- 被担保債権の弁済期から30年経過していること
- 清算人の所在が判明しないこと