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遺産分割協議の口約束、法的には有効?
ご親族が亡くなり、相続人同士で遺産の分け方を話し合う遺産分割協議。その話し合いで「じゃあ、これでいこう」と口約束だけで済ませてしまい、不安に思われている方もいらっしゃるかもしれません。
結論から申し上げますと、遺産分割協議は、相続人全員が合意すれば口約束でも法律上は成立し得ます。一般に、法律で書面などの方式が定められていない限り、当事者の合意で成立するという考え方があるためです。
しかし、これはあくまで法律上の理屈の話。「口約束でも有効」という言葉を鵜呑みにしてしまうと、後々、深刻なトラブルに発展する可能性がないとはいえません。
特に、相続財産に不動産が含まれている場合、口約束だけでは手続きが進まないという現実があります。なぜなら、不動産の名義変更(相続登記)を行う法務局では、口頭での合意内容を確認するという方法が用意されておらず、不動産登記法上「遺産分割協議書」の提出が求められているからです。
つまり、理論上は有効でも、実務上は書面を求められることが多い、というのが実情なのです。この記事では、なぜ口約束が危険なのか、具体的なトラブル事例を交えながら、そのリスクと今からでもできる対処法を分かりやすく解説していきます。
口約束がトラブルを招く事例
「うちは家族仲がいいから大丈夫」と思っていても、お金や不動産が絡むと、人の気持ちは変わりやすいものです。口約束の遺産分割がいかに危ういか、ここで2つの事例を見ていきましょう。

事例1:「言った言わない」で約束が反故にされるケース
これは「言った言わない」の水掛け論のケースです。
例えば、相続人が長男と次男の二人で、「父の財産はすべて長男が相続する代わりに、長男が次男へ代償金として300万円を支払う」という口約束が成立したとします。しかし、いざ手続きを進めようとしたとき、次男が「そんな約束はしていない。法定相続分にしたがって、父の財産の半分をもらう権利があるはずだ」と主張を変えてきたらどうなるでしょうか。
長男が「いや、あの時たしかに合意したじゃないか」と反論しても、何らかの客観的な証拠がなければ、合意があったことを証明するのは極めて困難です。もし裁判になったとしても、約束の存在を主張する側(この場合は長男)が、その証拠を提出する責任を負わなければなりません。結局、証明できずに当初の約束は反故にされ、遺産分割は振り出しに戻ってしまいます。これまでの時間と信頼関係は、もろくも崩れ去ってしまうのです。
事例2:相続人が亡くなり、話がさらに複雑化するケース
口約束で合意した後、「まあ、いつでも書面にできるだろう」と手続きを先延ばしにしている間に、相続人の一人が亡くなってしまうケースも少なくありません。これを「数次相続」といいます。
仮に、祖父の遺産分割について父と叔父が口頭で合意した直後、父が亡くなってしまったとしましょう。すると、父が持っていた「祖父の遺産を分割してもらう権利」は、母と子である私たちが相続することになります。
私たちは、父と叔父がどんな内容で合意したのか詳しい経緯を知りません。叔父から「お父さんとはこう約束したんだ」と言われても、それが本当かどうか分かりませんし、私たちとしては納得できない内容かもしれません。
当初は2人だった話し合いが、関係者が増えることで意見の集約は格段に難しくなります。問題を先送りにすることで、このように関係者が増え、解決がさらに遠のいてしまうリスクがあるのです。
なぜ口約束だけでは不動産の名義変更ができないのか?
預貯金の解約手続きなどでは、金融機関所定の用紙に相続人全員が署名・押印すれば、遺産分割協議書がなくても手続きが進められる場合があります。しかし、不動産の名義変更(相続登記)を遺産分割協議の内容に基づいて進める場合、口約束だけでは申請手続を進めることはできません。
法務局の登記官は、相続人同士がどのような話し合いをしたのか知る由もありません。「長男が家を継ぐことで全員納得しました」と口で伝えても、それが真実であるか、また他の相続人が本当に同意しているのかを客観的に判断できないのです。
そのため、不動産登記法では相続による不動産の名義変更の申請において、「誰が、どの不動産を相続したのか」について、「相続人全員が合意したこと」を証明する客観的な書面の提出を求めます。それが「遺産分割協議書」であり、そこには相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付することが必要不可欠なのです。
2024年4月からは相続登記が義務化され、原則として不動産を相続したことを知った日から3年以内の相続登記が必要となり、怠った場合は過料の対象となる可能性もあります。遺産に不動産が含まれる場合は、遺産分割協議書の作成は避けて通れない手続きだとご理解ください。
参照:相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等(PDF)
今からでも間に合う!口約束を確実なものにする3ステップ
「もう口約束してしまったけれど、やっぱり不安…」と感じている方、ご安心ください。今からでも決して遅くはありません。以下の3つのステップで、口頭での合意を確実なものにしていきましょう。

ステップ1:合意内容を全員で再確認し、書面にまとめる
まずは、相続人全員でもう一度集まるか、連絡を取り合い、以前に口頭で合意した内容を再確認することから始めます。
- 誰が(相続人)
- どの財産を(不動産、預貯金、株式など)
- どのように取得するのか(すべて取得、〇分の〇の割合で取得など)
これらの内容について、全員の認識が一致しているか、一つひとつ丁寧に確認しましょう。その場で箇条書きのメモでも構いませんので、全員が見える形で文字に起こしていくのがおすすめです。「言った言わない」のトラブルは、そもそも最初の認識がズレていることも原因の一つです。この段階でズレが見つかれば、早い段階で修正することができます。
ステップ2:正式な「遺産分割協議書」を作成する
ステップ1で全員の認識が一致したら、その内容を基に法的に有効な「遺産分割協議書」を作成します。ご自身で作成することも可能ですが、特に不動産が含まれる場合は記載方法に厳密なルールがあるため注意が必要です。
遺産分割協議書には、主に以下の項目を記載します。
- 被相続人(亡くなった方)の本籍、最後の住所、氏名、死亡年月日
- 相続人全員の住所、氏名
- 遺産分割協議が成立した旨の文言
- 誰がどの財産を相続するのかという具体的な分割内容
- 協議書に記載のない財産が見つかった場合の取り扱い(必要であれば)
- 協議が成立した年月日
不動産については、登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されている通り、所在地や地番、家屋番号などを正確に記載するようにします。誤りがある場合、法務局で手続きを受け付けてもらえない可能性があります。不安な場合は、遺産分割協議書の作成を専門家に依頼するのもよいでしょう。
ステップ3:相続人全員で署名し、実印で押印する
完成した遺産分割協議書を相続人全員に確認してもらい、内容に間違いがなければ、各自で署名し、実印を押印します。
実印とは、市区町村に登録した印影の印鑑のことです。言い換えれば、市区町村で取得できる印鑑登録証明書の表示されている印影の印鑑のことです。
ちなみに、実印以外の印鑑を認印などと呼ぶことが多いです。
全員の署名と実印での押印が揃った時点で、初めてその遺産分割協議書は法的な証明力を持つ強力な証拠となります。これで、口約束の状態から脱し、合意内容が法的に保護される状態になったと言えるでしょう。
それでも話がまとまらない場合の相談先
いざ遺産分割協議書を作成しようとしたら、「やはり納得できない」と言い出す相続人が現れ、話がこじれてしまうこともあるかもしれません。当事者同士での解決が難しいと感じたら、次のステップとして家庭裁判所での「遺産分割調停」という手続きを利用する方法があります。
遺産分割調停とは、裁判官や調停委員という中立な第三者を交えて、相続人全員が納得できる解決を目指して話し合いを進める手続きです。あくまで話し合いの場なので、冷静に意見を交換し、合意点を探ることが期待できます。
しかし、調停の手続きは申立て書類の作成などが複雑で、ご自身だけで進めるのは大きな負担となります。また、相続人が揃わないなど、状況が複雑化している場合は、早期に専門家へ相談することをおすすめします。法的な観点から状況を整理し、あなたにとって最善の解決策を一緒に考え、サポートすることが可能です。
遺産分割でお困りの際は、一人で抱え込まず、ぜひ一度ご相談ください。
遺産分割の相談・お問い合わせ
まとめ:口約束のリスクを理解し、必ず書面で証拠を残しましょう
この記事の重要なポイントをもう一度振り返りましょう。
- 口約束も法的には有効だが、証明できなければ意味がない。「言った言わない」のトラブルを防ぐためにも、証拠となる書面が不可欠です。
- 不動産を遺産分割協議の内容に基づいて相続登記する場合、書面化された遺産分割協議書が必要。法務局での名義変更手続きで求められる重要書類となります。
- トラブル防止のため、必ず相続人全員の合意を書面に残すべき。後から覆されたり、新たな相続人が現れたりするリスクに備えることができます。
相続手続きは、ご家族の今後の関係にも影響を与えかねない問題を含むことがあります。口約束で済ませてしまうその手軽さは、将来の大きなトラブルの火種になり得ます。「あの時、きちんと書面にしておけばよかった…」と後悔しないためにも、合意内容は必ず遺産分割協議書として形に残しておくことが大切です。
もし手続きの進め方や書類の作成で少しでも不安な点があれば、専門家を頼ることも有効な選択肢の一つです。円満な相続を実現するために、安全で確実な方法を選びましょう。
習志野市や八千代市で遺産分割協議でお困りの場合は、司法書士和久咲法務事務所までお気軽にご相談ください。

千葉県習志野市東習志野にある「司法書士和久咲法務事務所」は、相続手続や遺言書作成など、相続や終活に関するご相談を専門に承っております。代表司法書士の景山悟は、平成29年の開業以来、200件以上の相続手続や20名以上の成年後見人業務に携わり、地域の皆様のお力になれるよう日々努めております。初回相談は無料ですので、相続や遺言、成年後見などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
