AIで相続登記申請書を作成する際の落とし穴と注意点

AIで相続登記は可能?手軽さの裏に潜む落とし穴

「相続登記、費用を抑えるために自分でできないかな…」「最近話題のAIを使えば、申請書くらい簡単に作れるかもしれない」

そうお考えになるお気持ちは、非常によくわかります。テクノロジーの進化は目覚ましく、AIは私たちの身近な相談相手になりつつあります。

しかし、その手軽さの裏には、思わぬ落とし穴が潜んでいるかもしれません。

「AIに聞いて作った申請書を法務局に提出したら、不備を指摘されて途方に暮れてしまった」ということもあり得ます。AIが生成した一見完璧に見える書類でも、法律的・不動産登記手続き的には誤っていることも十分にあり得ます。

この記事では、AIを使って相続登記の申請書を作成しようとする際に陥りがちな落とし穴と、事前に知っておくべき注意点を具体的に解説します。これは、あくまでもAIの便利さを否定するのではなく、賢く使っていただくことで、皆様の相続手続きでの失敗を防ぐことを目的としています。

相続登記の申請書作成の全体像については、相続登記申請書の書き方|ひな形と記入例で専門家が解説で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

AIが作成した登記申請書でミスしがちな部分

筆者は特段AIや機械に強いわけではない(むしろ弱い)のですが、AIで登記申請書を作成してみた場合に間違えやすそうな部分をご紹介してみたいと思います。もしAIで登記申請書を作成した場合は、必ず確認してみてください。

1. 不動産の表示が登記簿と完全一致しない

相続登記の申請書に記載する「不動産の表示」は、登記事項証明書(登記簿謄本)の記載に沿って正確に転記する必要があります。記載がずれていると、法務局から補正を求められたり、手続きが滞ったりする原因になります。

「地番」と「住居表示」の混同: 日常的に使う住所(住居表示)と、登記上の土地の番号(地番)は異なります。

また マンションの場合、「専有部分の家屋番号」だけでなく、「敷地権の目的たる土地の表示」や「敷地権の割合」など、複雑な記載になりがちなので注意するようにしてください。

固定資産税の納税通知書を参考にするだけでは、遺産分割協議書や申請書の不動産記載ミスにつながる危険性があります。

2. 登録免許税の計算が間違っている

相続登記を申請する際には、登録免許税という税金を納める必要があります。この税額は、原則として「不動産の固定資産税評価額 × 0.4%」で計算されますが、常にこの式が当てはまるわけではありません。

AIが見落としてしまう可能性があるのが、税の軽減措置(特例)です。

例えば、「相続により土地を取得した方が、相続登記をしないで死亡した場合の登録免許税の免税措置」や、「土地の価額が100万円以下の場合の免税措置」といった特例があります。これらの適用を受ければ、本来納める税金がゼロになることもあります。

もしかしたら最新のAIでは特例を反映するかもしれませんが、特例の適用を無視した結果、納付しなくてよい税金を納付してしまう可能性があります。正確な税額計算には、登記申請年度の正しい不動産評価額を把握した上で、最新の法令知識を適用することが不可欠です。

3. 登記識別情報の通知を「希望しない」にしてしまう

これは、最も注意すべき落とし穴の一つです。登記識別情報とは、かつての「権利証」に代わるもので、登記名義人であることを確認するために用いられる12桁の英数字(符号)です。

法務局が提供している登記申請書のひな形には、「登記識別情報の通知を希望しません」というチェック項目があります。ここに☑をしてしまうと登記識別情報が通知されません。

登記識別情報が通知されなくても、所有権を取得できないなどということはありませんが、将来、その不動産を売却したり、ローンを組むために担保に入れたりする際には、この登記識別情報が必要になります。
もし手元になければ、司法書士による本人確認情報の作成等が必要になり、余計な費用(数万円~)と手間がかかってしまいます。安易に「希望しない」とすることのリスクは計り知れません。

この「登記識別情報の通知を希望しません」のチェックボックスにはチェックしないことをお勧めします。もしチェックを入れて登記を申請してしまった場合、登記識別情報は通知されず、後日登記識別情報通知を発行(交付)してもらうことはできません。

【専門家の視点】申請書が完璧でも防げないAIの3大見落としリスク

ここからが、本記事の最も重要な部分です。たとえAIが完璧な登記申請書を作成できたとしても、それだけでは本当の意味で相続登記を完了させたことにはなりません。必ずしも登記申請書を作成したAIは相続手続きの全体像を把握しているわけではないと思いますので、登記申請書以外の落とし穴があり得ます。

1. 財産調査の漏れ:私道や未登記建物を見落とす

相続登記は、亡くなった方の財産を正確に把握する「相続財産調査」から始まります。しかし、この調査は相続人が行う必要があります。AIは、あなたが入力した情報に基づいて書類を作成するだけです。

実は、相続財産の中には、固定資産税の納税通知書(名寄帳)に記載されていないものが存在することがあります。

  • 私道持分: 自宅前の道路が複数の所有者で共有する私道の場合、その持分も相続財産ですが、納税通知書には載ってこないケースが多くあります。
  • 未登記の附属建物: 昔に建て増した物置や車庫などが登記されていない場合も、調査をしないと見落としてしまいます。

これらの財産は、公図などの資料を読み解いたり、共同担保目録等から推測したりといった専門的な調査によってはじめて判明することが少なくありません。

AIに相談して作成した申請書では、これらの財産が丸ごと抜け落ちてしまいます。法務局は「申請されていない財産」について何も指摘してくれません。結果として、一部の財産の相続登記を放置したのと同じ状態になり、将来の売却時や次の相続の際に大きなトラブルの原因となります。

2. 関連手続きの放置:抵当権の抹消登記を忘れる

亡くなった方が生前に住宅ローンを組んでいて、すでに完済しているケースはよくあります。この場合、不動産の登記簿には金融機関の「抵当権」が設定されたまま残っていることがほとんどです。

この抵当権は、相続登記とあわせて抹消登記をしておかないと、登記簿上は「借金が残っている不動産」として扱われ続けます。おそらくAIが登記簿を読み取って「この古い抵当権はローン完済済みだから、抹消手続きも一緒にした方がいいですよ」といった提案までは無理なのではないかと思います。

抵当権が残ったままだと、その不動産を売却しようとしても買い手が見つかりにくかったり、新たなローンを組めなかったりと、具体的な不利益が生じます。何十年も前の休眠担保になっている抵当権の抹消は手続きが複雑になることもあり、相続の機会に手続をしておくと良いこと場合が多いです。

3. 情報の不正確さ:古い法制度や誤った情報源を参照する

昨今は登記の世界も法改正によって手続き・制度が変わっています。例えば、2024年4月1日から相続登記が義務化されたり、上記でご紹介しました登録免許税の特例などがあります。また、法務局の統廃合もあり、もしかしたら「今はもう存在しない法務局(出張所)」を案内してくることもあるかもしれません。

AIはいろいろな情報を参照しているのだと思いますが、その情報の中には不正確な情報も含まれている可能性が高いです。そのためAIの回答をそのまま鵜呑みにすることは、それなりのリスクが含まれる異なります。そのため、必ず法務局の公式サイトなどの信頼のおける情報で裏付けを取ることが不可欠ですが、その手間は大きな負担になるかもしれません。(そもそもその手間を無くすためのAIの活用だったはずなのですが。)

AIの限界を知り、賢く付き合う方法

AIを使用して登記申請書を作成した場合、間違えたまま登記申請をしてしまうリスクは否定できません。
仮に申請書自体は間違っていなかったとしても、対象となる不動産の見落としや、登記完了後の登記識別情報の通知を不要とするような、将来不利益になりかねない申請書を作成してしまうかもしれません。

また、登記簿をしっかり確認しないため、本来は抹消しておくべきであった抵当権の登記をそのまま放置してしまうことも起こり得ます。

本来であれば相続登記の対象となる不動産をそのままにしておくと、次の相続が発生した際に手続きが非常に煩雑になります。抵当権の抹消登記を放置した場合も同様です。

AIは確かに便利ですが、その落とし穴に気づかずに登記手続きを終えてしまうと、将来に大きなツケを回すことになりかねないのです。

AIは「壁打ち相手」として活用する

では、AIは全く役に立たないのか?、と言えば、そんなことはないと思います。AIの最適な使い方は、「下調べの優秀な相棒」というような位置づけなのだと思います。

「相続登記って、そもそも何から始めるの?」「必要書類にはどんなものがある?」といった基本的な質問を投げかけ、概要を掴むための「壁打ち相手」としては非常に有用ではないでしょうか。申請書の雛形を作成させ、たたき台として利用するのも良いでしょう。

ただし、そこで得た情報はあくまで参考情報です。その回答が本当に正しいか、最新の情報であるかを、必ず一次情報で確認する必要があります。特に、申請書の具体的な記載例については、法務局のウェブサイトで公開されているものを必ず参照してください。

参照:<記載例> 登 記 申 請 書 – 法務局

そして、少しでも不安に感じることがあれば、相続登記の実務に通じた司法書士に確認してもらうことが重要だと思います。

法務局の補正指示、個人での対応はなぜ難しいのか

最後に、もし、AIで作成した登記申請書で登記をした場合に、誤りがあった場合、法務局から「補正(ほせい)」、つまり書類の訂正を求める電話がかかってきます。

ただ、その電話での登記官の指示などが理解しにくい場合があります。
登記官も意地悪をしているわけではないのですが、どうしても登記続きには専門用語が多く、電話口で説明されてもよくわからないことも多いように思います。

とはいえ、間違ったものをそのままにしておいても、登記は完了しないどころか、最悪の場合「却下」されてしまうこともあります。

そのため、登記官の補正指示には必ず対応する必要があるのですが、もし窓口での対応を求められた場合は、開庁日である平日の日中に管轄の法務局まで出向く必要もあります。

管轄がご自宅の近くであれば、まだ対応もできると思いますが、遠方のご実家などの場合は、その対応自体が一苦労になりかねません。

登記を申請するまでは、ご自身のペースで作業ができると思いますが、補正の場合は時計が動いてしまっている状態なので、早く・正確に、しかも場合によっては平日の日中に対応しなければいけないところが難しいところだと言えます。

まとめ|確実な相続登記は専門家への相談が近道です

この記事では、AIで相続登記申請書を作成する際の落とし穴について解説してきました。

  1. 不動産の表示が登記簿と一致しない
  2. 登録免許税の計算が間違っている
  3. 登記識別情報の通知を「希望しない」にしてしまう
  4. 私道などの相続財産を見落とす
  5. 抵当権の抹消など関連手続きを放置する
  6. 古い・不正確な情報に基づいてしまう
  7. 法務局からの補正指示に個人で対応するのが難しいことがある

AIは、基本的な情報収集や書類のたたき台作りには便利なツールです。しかし、一つ一つのご家庭で事情が異なる相続手続きにおいて、財産調査から関連手続きまでを網羅し、法的に正確な判断を下すことは難しいように思います。

特に2024年4月1日からは相続登記が申請義務化され、正当な理由なく申請を怠った場合は10万円以下の過料の対象となることがあります。状況に応じて司法書士に相談・依頼することが、結果として手戻りやトラブルを減らす選択肢になり得ます。相続登記を司法書士に依頼するメリットは、単なる書類作成代行にとどまらない、こうした見えないリスクの回避にあるのです。

習志野市、八千代市およびその周辺地域で相続登記や申請書の作成についてお悩みの方は、どうぞお気軽に司法書士和久咲法務事務所の無料相談をご利用ください。

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