Archive for the ‘相続登記’ Category

認知症と遺産分割協議

2025-05-13

相続手続には遺産分割協議が必要なことが多い

不動産の名義変更や預貯金の解約など相続手続では、遺産分割協議(書)が必要なことが多いです。
その遺産分割協議は、相続人の全員の同意が必要とされています。

遺産分割協議(書)とは

亡くなった方(被相続人)が遺言書を作成していなかった場合、相続の方法は次の2パターンになります。
①民法が定めた法定相続分に従って相続人全員で相続する
②相続人全員の同意により①とは異なった相続人・割合で相続する

②のパターンの相続人全員による話し合いを「遺産分割協議」と呼んでいます。

遺産分割協議は、相続人全員が納得する限り、どのような内容でも構いません。
ポイントは、【相続人全員の合意】です。

例えば、父が亡くなり、相続人が母・子二人のような場合に、相続人全員である母・子二人が話し合って(遺産分割協議をして)、自宅・預貯金など父の相続財産すべてを母が相続する、というような取り決めに合意できれば、それで構いません。

その点、相続というと「法定相続分」が気になる方もいるかもしれません。
「法定」となっているので、あたかも法が定めた割合通りに分割をしなければならないような感じにもなってしまいますが、そこは、相続人全員が合意する限り、法定相続分にとらわれる必要はありません。

ちなみに、遺産分割協議について民法では「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」(民906条)と定められており、必ずしも法定相続分で分割しなければならないと定めているわけではありません。

また、相続人全員の話し合いを「遺産分割協議」と言いますが、民法では、その結果を必ずしも書面にすることは求められていません。

しかし、不動産の名義変更(相続登記)などでは結果を書面化した「遺産分割協議【書】」が必要とされていますし、相続登記が無い場合であっても、後日のために遺産分割協議【書】を作成することが多いと思います。

相続人が認知症だった場合

このように遺産分割協議には、相続人全員の合意が必要なのですが、相続人の中に高齢で認知症の方がいる場合もあります。
認知症の方は、「この遺産はほしい」「この遺産はいらない」「相続したい」「相続したくない」などという意思表示が困難なことが多いです。
つまり、認知症の方は実質的な遺産分割協議には参加することが難しいと考えられます。
とはいえ、そのような方(認知症の方)を除外して遺産分割協議をすることも出来ません。
その場合は、認知症の方に代わって遺産分割協議に参加する人を選ぶ必要があります。
その人が「成年後見人」です。

成年後見人の選任

相続人の中に意思表示が困難である認知症の方がいる場合は、成年後見人の選任を検討する必要があります。
成年後見人は、認知症の方の代理人になる人ですが、親族などが勝手に決めることはできません。
家庭裁判所の手続によって選任してもらう必要があります。
家庭裁判所に、申立書や医師の診断書など必要書類をそろえて申立をします。
申立から成年後見人が決まるまでに3ヶ月程度かかります。(ケースによって期間は異なります。)

成年後見人についての留意点は次のとおりです。
・申し立てた親族が望む人が成年後見人に選任されるとは限らない
  →成年後見人は家庭裁判所が決める

・一度成年後見人が選任されると、基本的には一生涯、成年後見人が付いたままになる。
  →遺産分割協議のためだけに選任されるわけではない。

・申立後に、申立を取り下げ(中止する)ことはできない。

・成年後見人に専門職(司法書士・弁護士等)が選任された場合は、家庭裁判所が決めた報酬を支払う必要がある、など

このように成年後見人を選任してもらい、認知症の方に代わって成年後見人が遺産分割協議に参加することとなります。

ちなみに、成年後見人が選任された認知症などの方を、成年後見人といいます。

遺産分割協議と成年後見人

無事、成年後見人が選任されればいよいよ遺産分割協議なのですが、ここでも留意点があります。
それは、遺産分割協議の内容として、原則、成年被後見人の取得割合を法定相続分以上にする必要があるという点です。

例えば、父が亡くなり、その相続人として母・長男・長女の3人が相続人であったとします。
父の相続財産は、主に自宅の土地・建物であり、預貯金はごくわずかだったとします。
母は認知症により遺産分割についての意思表示をすることができません。
長男・長女としては、すべての財産を長男が相続した方が良いのではないかと考えています。

この事例の場合、仮に母が元気であれば相続人全員の合意によって、すべての財産を長男が相続することもできます。

しかし、母に成年後見人が選任された場合は、母の相続分として法定相続分以上の財産を確保する必要があります。
具体的には、母の法定相続分は2分の1なので、父の財産の2分の1以上を確保する必要があります。

そのため、この事例の場合、「長男がすべての財産を相続する」という内容の遺産分割協議は、基本的には認められないと考えられます。

遺産分割協議書への署名押印

2024-06-10

遺産分割協議書には相続人の押印等が必要です。
押印する印鑑の種類、署名か記名か、遺産分割協議書の通数などについてご案内します。

遺産分割協議書への押印

遺産分割協議書には印鑑登録証明書の印鑑、いわゆる実印での押印が必要です。
認印や三文判のように見えても、市区町村に印鑑登録している印=印鑑登録証明書の印であれば、それが実印です。
一方、いくら実印ぽく見えても、印鑑登録していない印であればそれは実印ではありません。
必ず実印で押印するようにしてください。

捨印とは

遺産分割協議書への押印の際「捨印(すていん)」を求められることがあります。この場合、捨印という印鑑があるわけではなく、押印した実印をもう一か所押してくださいという意味です。
捨印は、後日、軽微な修正があった場合に訂正印の役割を果たします。
例えば、「東京都」と記載すべきところ「東京戸」となっていた場合、「戸」と「都」に修正するためには、本来、再作成か訂正印が必要であるところ、便宜捨印を使って修正することが認められています。
なお、捨印が悪用されないとも限りません。そのため、相続人間で信頼関係がある場合は便利ですが、争いがあるような場合は、捨印の使用は慎重にしてください。

氏名は署名か記名か?

遺産分割協議書には、実印の押印とともに各相続人の住所氏名を記載します。氏名については、相続人の自署(サイン)が望ましいですが、記名(印刷)でも構いません。
高齢者や手が不自由な方の場合、自書が難しいこともあり得ます。その場合は初めから住所氏名を印刷の上、実印を押印しても遺産分割協議書は有効です。
ただし、金融機関や相続手続を行う窓口によっては自署を求めることもあるようですので、各金融機関等に確認してください。
また、相続人間で争いがあるような場合は、後日の争いを避けるためにも、記名ではなく署名をすることをお勧めします。
なお、不動産登記(相続登記)では記名(印刷)であっても問題ありません。

連署か個別か?

遺産分割協議書には相続人全員が署名もしくは記名押印をする必要があります。
相続人が複数人ある場合は、連署(連名)になることが一般的です。ただ、各相続人が遠方に住んでおり一堂に会することが難しいこともあり得ます。その場合は、すくなくとも不動産登記(相続登記)では、同一内容の遺産分割協議書に各相続人が署名(記名)押印すればよいとされています。例えば、相続人が3名の場合、一通の遺産分割協議書に3名が連署(連名)してもよいですし、同一内容の遺産分割協議書を3通作成し、それぞれ個別に署名押印をしてもよいとされています。(参考先例・登記研究170号質疑応答3597)

遺産分割協議書の通数

最低1通(個別の場合は1セット)あれば、相続登記をはじめ各相続手続では遺産分割協議書の原本は返してもらうことができますので、使いまわすことができます。
ただし、相続人間の関係によっては、それぞれ1通ずつ手元に置いておきたいという要望もあると思います。
通数(セット数)は相続人間で話し合って決めるようにしてください。

相続人全員の参加・合意

遺産分割協議は相続人の全員が参加し、合意する必要あります。そのため遺産分割協議書への署名(記名)押印も相続人全員分が必要です。
相続人全員とは、たとえ相続人の中に行方不明で音信不通の方がいても、その方を除いて遺産分割協議を成立させることは出来ないという意味です。行方不明者の他に、財産はいらないといって非協力的な人、認知症により内容が理解できない人、未成年者なども同様です。それらの方を除いて遺産分割協議を行ってもそれは無効です。
この場合、不在者財産管理人(行方不明者)、成年後見人(認知症の方)、遺産分割調停・審判(非協力的な人)など別途の手続が必要となってきます。
相続人全員の署名がそろう見込みが立たない場合は、専門家への相談をお勧めします。

keyboard_arrow_up

0474705001 問い合わせバナー 無料相談について