Archive for the ‘相続登記’ Category
遺産分割協議と不在者財産管理人
人が亡くなると、その人が持っていた財産は相続財産となります。
その相続財産を誰が承継するかは、相続人全員による話し合いである「遺産分割協議」で決めることになります。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要である点がポイントです。
つまり、相続人の中に行方不明の方や長い間連絡が取れないような方がいる場合、遺産分割協議を成立させることができません。
そのようなケースでは「不在者財産管理人」の選任が必要となることがあります。
そこで、今回は、簡単に遺産分割協議について触れた後、不在者財産管理人の制度等についてご案内します。
遺産分割協議
遺産分割協議は、相続人全員による遺産分けの話し合いであり、相続人全員の合意があれば、どのような遺産分けの内容でも構いません。
例えば「長男がすべて相続する」という内容でも認められ、法定相続分通りでなくても全く問題ありません。
相続人全員による合意ができた場合、その内容を「遺産分割協議書」に記載し、相続人全員が署名・押印する必要があります。
押印はいわゆる実印(市町村に印鑑登録をしている印鑑)で行う必要があります。
このように、遺産分割協議は「相続人全員」で行う必要があり、一人でも欠けているとその協議は無効です。
したがって、相続人の中に行方不明の方がいるような場合は、その方に代わる人を選任する必要があります。
その代わりの人=不在者財産管理人です。
不在者
不在者とは「従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者」とされています。
例えば「家出をして帰る見込みのない者」は不在者と考えれれる一方、単に長い期間連絡を取っていないというだけで、居場所や容易に連絡が取れるような場合は不在者には当たらないとされています。
不在者財産管理人
相続人の中に不在者がいる場合、遺産分割協議を成立させるために、不在者財産管理人を選任する必要があります。
不在者財産管理人は、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に選任の申立てをすることにより選任されます。
申立は、不在者の従来の住所地(居所地)を管轄する家庭裁判所です。
申立には以下のような書類が必要となります。
①申立書
②不在者の戸籍謄本・戸籍の附票
③不在者財産管理人候補者の住民票
④不在の事実を証する資料
→例えば、不在者あての手紙で「あて所に尋ねあたらず」のスタンプが押されて
返送された郵便物など
⑤不在者の財産に関する資料(登記簿謄本等)
⑥利害関係を証する資料
→申立人と不在者が親族関係の場合は、それがわかる戸籍謄本等
申立後、家庭裁判所において調査等が行われます。
その上で、不在者財産管理人の選任の要件を満たしていると判断された場合は、
不在者財産管理人が選任されます。
なお、申立の際、不在者財産管理人の候補者を記載することはできますが、誰を選任するかはあくまでも家庭裁判所の判断であり、必ずしも候補者が選任されるとは限りません。
また、選任された不在者財産管理人について、不服を申し立てることはできません。
遺産分割協議と家庭裁判所の許可
不在者財産管理人が選任されたとしても、不在者財産管理人には、遺産分割協議に合意する権限はありません。
別途、遺産分割協議に合意するための家庭裁判所の許可を得る必要があります。
不在者財産管理人は不在者の利益を保護する義務があります。
そのため、他の相続人と遺産分割協議を行う際も、不在者の代弁者として権利行使をする必要があります。
具体的には、不在者のために原則として法定相続分の確保が求められます。
例えば、被相続人が父・相続人が子3人・相続財産が3,000万円の場合、子のうちの一人に不在者財産管理人が選任されたとすれば、少なくとも不在者の相続分として法定相続分である1,000万円分の財産を確保する必要があります。
仮に「主な相続財産が自宅不動産・預貯金はわずか数百万円程度であり、その全ての不在者以外の相続人が相続するつもり」であったとしても、多くの場合、不在者のために法定相続分の確保が求められます。
不在者財産管理人は、他の相続人と遺産分割協議が合意できる見込みが立った段階で、家庭裁判所にその内容で協議を成立させて良いかどうか許可を申し立てます。
無事、遺産分割協議の内容に許可がでれば、不在者財産管理人は他の相続人とともに遺産分割協議書に署名・押印をすることとなります。
その後は、その遺産分割協議書を使用して、相続登記や預貯金の相続手続を行っていくこととなります。
最後に
遺産分割協議は相続人全員によって行う必要がありますが、相続人の中に行方不明者がいる場合は、不在者財産管理人を選任する必要があります。
不在者財産管理人は、不在者の利益を守る必要があります。
そのため、遺産分割協議の内容として、不在者の相続分として、少なくとも法定相続分を確保する必要があります。
遺産分割協議は、相続人の合意があれば、「どのような内容でも自由に」定めることができます。
しかし、不在者財産管理人が選任された場合、不在者の法定相続分を確保する必要があるため「どのような内容でも自由に」とはいかない場合があることに留意する必要があります。
不在者財産管理人の選任手続のご相談
不在者財産管理人の選任手続についてのご相談を承ります。
お気軽にお問い合わせください。

千葉県習志野市東習志野にある「司法書士和久咲法務事務所」は、相続手続や遺言書作成など、相続や終活に関するご相談を専門に承っております。代表司法書士の景山悟は、平成29年の開業以来、200件以上の相続手続や20名以上の成年後見人業務に携わり、地域の皆様のお力になれるよう日々努めております。初回相談は無料ですので、相続や遺言、成年後見などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
自宅の相続登記の方法/必要書類・手続の流れを解説します。
相続が発生した際に、自宅などの不動産の名義変更(相続登記)を行う必要があります。
相続登記は2024年(令和6年)4月から義務化されています。
そのため、3年以内に登記を行わない場合、10万円以下の過料(ペナルティー)が科される可能性があります。
相続登記とは?
相続登記とは、亡くなった方(被相続人)の名義になっている不動産を、相続人の名義に変更する登記手続きです。
例えば、亡くなった親が自宅の名義人であった場合、その自宅の登記名義を相続人に変更するためには、管轄の法務局において相続登記を行う必要があります。
相続登記を行わないと…
相続登記を行わず放置すると、以下のような不都合が生じる可能性があります。
① 売却がスムーズに出来ない
→ 亡くなった方の名義のままでは売却はできません。
② 相続人の中で相続が生じると相続関係が複雑になる
③ 相続登記の義務化によりペナルティーの対象となる可能性がある。
※相続登記の義務化前(2024年4月以前)は、相続登記の手続の負担感などから相続登記を行わず放置する事例も散見されました。
義務化前に相続を経験した方から「うちは手続が面倒だから放置しているよ。大丈夫だよ」とアドバイスされたとしても、それは法令改正されており古い情報にもとづくアドバイスです。
義務化前に相続が発生した事例も義務化の対象となっています。
そのため「放置しているよ」とアドバイスをしていた方に、むしろ「義務化されたので相続登記をしたほうがいいですよ」とアドバイスをしてあげてください。
自宅の相続登記の流れ
相続登記は、以下のような手順で進めることが一般的です。
1.相続人の確定
被相続人の戸籍謄本等を出生から死亡までの一生分の戸籍を取得して、誰が相続人であるのか書面にて確定させます。
必要な戸籍等は次の通りです。
① 被相続人の出生から死亡までの一生分の戸籍
② 相続人全員の現在の戸籍(被相続人の死亡日後に取得したもの)
2.自宅の登記簿謄本の確認
自宅の登記簿謄本を法務局で取得して、名義人が間違いなく被相続人であるかを確認します。
代々受け継いだ土地家屋の場合、登記名義が先代・先々代のままであることがあります。
また、名義人が被相続人であっても登記されている住所が転居前の古い住所の場合があります。
古い住所の場合、登記されている住所から亡くなった時点の住所までの経緯がわかる住民票・戸籍の附票などが必要になります。
3.遺産分割協議
遺言がなく相続人が複数人の場合は、相続人全員により誰が不動産を相続するのかを話し合いによって決めます。
この話し合いを遺産分割協議といい、その結果を書面化したものを遺産分割協議書といいます。
遺産分割協議書には、相続人全員の実印での押印が必要です。
なお、遺産分割協議は相続人全員の参加が必要です。
相続人の中に、
・認知症の方
・行方不明の方
・遺産分割協議に非協力的な方
などがいる場合は、遺産分割協議は成立しません。
別途、家庭裁判所の手続等が必要になりますので、専門家への相談等をお勧めします。
4.必要書類
主な必要書類は以下のとおりです。
① 被相続人の一生分の戸籍謄本
② 被相続人の住民票の除票
③ 相続人全員の戸籍謄本及び住民票(本籍付き・マイナンバーなし)
④ 固定資産評価証明書や課税明細書など、自宅不動産の評価額が分かる資料
※④は登記を申請する年度のものが必要です。
例えば、令和5年の相続であっても、相続登記の申請が令和7年度の場合は、令和7年度の評価額が分かる資料が必要です。
3月から4月にかけて登記申請を準備されるような場合は、特に注意してください。
⑤ 遺産分割協議書
⑥ 相続人全員の印鑑証明書※
※印鑑証明書の有効期限はありません。
5.登記申請書の作成
登記申請書を作成します。
ひな型は法務局のホームページや法務局の窓口に置いています。
なお、法務局の無料相談を受けたとしても、登記申請書は申請者が作成する必要があり、法務局の係員が代筆することは無いようです。
6.管轄の法務局に申請
相続登記は法務局に申請しますが、管轄が定められています。
管轄は、不動産の所在地の法務局です。
管轄を間違えて申請すると、申請をやり直すこととなり手間が増えますので、登記申請前にしっかり確認をするようにしてください。
登記申請は、窓口・郵送・オンラインのいずれでも可能ですが、窓口での申請をお勧めします。
登録免許税
相続登記には登録免許税の納付が必要です。
登録免許税とは、相続登記をする際に納付する税金です。
税額は、不動産の固定資産評価額×0.4%です。
例えば、評価額が1,000万円の自宅の場合、登録免許税は4万円です。
登録免許税は、登記申請書と一緒に収入印紙で納付します。
なお、土地の評価額が100万円以下の場合は免税(登録免許税が0円)となる措置があります。
この措置は令和9年3月31日までの期限付きですが、延長される可能性もあります。延長の可否等は、法務局で確認してください。
司法書士に依頼すべきか?
自宅の相続登記は、ご自身で行うことも十分に可能です。
しかし、以下の場合は、司法書士に依頼するか検討することをお勧めします。
① 戸籍等の書類の収集が面倒、その時間がない
② 遺産分割協議書等の作成が不安
③ 登記簿謄本の名義人が被相続人ではなかった
④ 相続人の中に、亡くなっている人がいる
⑤ 相続人の中に、認知症・行方不明・手続に非協力の人がいる
⑥ 今の居住地と実家が離れている
相続登記を承ります
弊所ではご自宅の相続登記手続きを承ります。
相続人の確定作業(戸籍の取得・内容の確認)、遺産分割協議書の作成をはじめ、銀行口座の解約手続など遺産承継業務も承っております。
初回の相談は無料です。
相続登記手続きでご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

千葉県習志野市東習志野にある「司法書士和久咲法務事務所」は、相続手続や遺言書作成など、相続や終活に関するご相談を専門に承っております。代表司法書士の景山悟は、平成29年の開業以来、200件以上の相続手続や20名以上の成年後見人業務に携わり、地域の皆様のお力になれるよう日々努めております。初回相談は無料ですので、相続や遺言、成年後見などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
まずは登記簿謄本を確認した方が良い理由
不動産の名義人の方が亡くなった場合、相続登記が必要になります。
相続登記では登記申請書を書いたり、登記申請書と一緒に提出するいろいろな書類を用意したりと、準備することが多いですが、まずは、登記簿謄本の確認からスタートしましょう。
登記名義は「お父さんに決まって・・・」ない。
なぜ、登記簿謄本の確認しなければならないのか。
それは、ズバリ、登記名義人を確認する必要があるからです。
登記名義人とは、登記簿上の所有者の事です。
登記簿謄本には、所有者の「住所」と「氏名」が記載されています。
※登記簿謄本にはいくつかの呼び方があり「登記事項証明書」や「全部事項証明書」も同じ意味です。ここでは登記簿謄本の名称で統一します。
例えば、父・母・子の家族関係で、父が亡くなり自宅の相続登記を申請する場面を想定します。
母も子も自宅の登記名義は父であることにまったく疑いを持っていません。
実際、毎年市役所から送付される不動産の固定資産税の通知書には、所有者として父の氏名が記載されています。
そこで、父となっている登記名義を母に変更するための相続登記を何とか自力で管轄の法務局に申請しました。
すると、後日、管轄の法務局から電話がかかってきました。
法務局「〇〇さんですか?先日申請された相続登記ですが、登記名義人が違いますのでこのまま登記をすることができません。」
母「っえ?どういうことですか?よくわからないのですが?」
法務局「詳しくは登記簿謄本を確認してもらいたいのですが、登記名義人はご主人様(父)ではないようです」
母「っえ??」
一体どういう事でしょうか?
その後、登記簿謄本を確認したところ、父(夫)の父、つまり、祖父の名義のままとなっていたことが判明しました。
祖父はすでに亡くなっているので、このケースでまず行うべき登記は、祖父の相続登記であるということになります。
せっかく父の相続登記についていろいろと準備をしたとしても、登記簿謄本の確認を行っていなかったために、もう一度仕切り直しとなってしまいました。
なお、市役所から送付される固定資産税の通知書に「不動産の所有者」と記載されていることがあります。
ただし、その書面はあくまでも固定資産税に関する書面であって、登記簿謄本の記載とは直接の関係はありません。
したがって、固定資産税の通知書に「不動産の所有者」との記載があったとしても、登記簿謄本によって登記上の所有者を確認する必要があります。
また、登記名義は父であったとしても「住所」が従前のままであったということもあり得ます。
その場合、準備しなければならない書類も異なってきます。
そのため、相続登記の準備を始める際は、まずは登記簿謄本の確認を行うようにしてください。
そして、登記名義人が思っていた方と違った場合(父と思っていたら祖父であったような場合)、相続登記の手続は複雑になることが多いので、まずは、司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
知らない担保の登記が判明することも
登記簿謄本を確認すると相続人が知らない担保(金銭等の借入のカタになっていること)が判明することがあります。
担保とは、具体的には「抵当権」や「根抵当権」と登記されているものです。
例えば、抵当権の代表例は住宅ローンです。
ただし、住宅ローンであれば銀行名等が登記されているので、登記簿謄本を見ればおおよそ推測が付きます。
一方、まったく知らない個人名義であったり、明治や大正時代の日付とともに債権額金10円などといった、いかにも古めかしい内容の抵当権がついていることがあります。
これは、いわゆる休眠担保と言われるものである可能性が高いです。
休眠担保は手続をしない限り自動的に消えることはありません。
ただし、直ちに差押えなどの不利益が生じる可能性も低いことが多いです。
一方で、売却をしたい場合、一般的には休眠担保が付い不動産は売却が難しいとされています。
そのため、休眠担保の存在を把握した場合は、そのまま放置せず司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
休眠担保のご相談も承ります
当事務所では、相続登記はもちろん、休眠担保のご相談も承ります。
登記簿謄本の見方・読み方がわからないと言った場合のご相談も承ります。
どうぞお気軽にご相談下さい。

千葉県習志野市東習志野にある「司法書士和久咲法務事務所」は、相続手続や遺言書作成など、相続や終活に関するご相談を専門に承っております。代表司法書士の景山悟は、平成29年の開業以来、200件以上の相続手続や20名以上の成年後見人業務に携わり、地域の皆様のお力になれるよう日々努めております。初回相談は無料ですので、相続や遺言、成年後見などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
子のいない人が遺言を作成した方が良い理由
相続人は誰か
誰であっても人が亡くなると相続が発生します。
相続が発生すると、亡くなった人の財産(相続財産)は相続人へ承継されることになります。
相続財産を承継する相続人は民法で定められており、そこには優先順位があります。
相続人や優先順位は、簡単に言うと次の通りです。
まず、相続人の配偶者(妻や夫)がいる場合、配偶者は必ず相続人になります。
次に、被相続人(亡くなった人)に子がいれば、子が相続人になります。子は優先順位1位ということになります。
つまり、被相続人に配偶者と子がいれば、配偶者と子が相続人になります。
次に、子がなく、被相続人の親が健在の場合は、親が相続人になります。親や優先順位2です。
子がなく、親もいない場合は、兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹は優先順位3位です。
つまり、被相続人には配偶者がいるけれど、子も親もなく、被相続人に兄弟姉妹がいる場合、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人なります。
ポイントとしては
①配偶者は必ず相続人になります。
②優先順位の先の相続人がいる場合は、後順位の人は相続人にはなれません。
③例えば子がいる場合、親や兄弟姉妹は相続人にはなれません。
※このほかに、子がいたが、被相続人より先に亡くなっていた場合(代襲相続)や、養子縁組をしていたなどの特別な事例がありますが、その場合の相続人については、また別の機会にお話しします。
※また、以下の解説では分かりやすさを優先しており、法律用語等は厳密には正確でない部分もありますのであらかじめご承知おきください。
「だれが」「どの」財産を相続するのか
相続人はお分かりいただけたと思いますが、では、具体的に相続人の「だれが」「どの」財産を相続するのでしょうか。
これは民法には定められておらず、次の2パターンにより決まります。
【1】遺言で決める
【2】相続人全員の話し合い=遺産分割協議で決める
【2】の遺産分割協議は、【1】の遺言がない場合に行います。
つまり、【1】の遺言があれば、遺産分割協議をする必要はありません。
反対に言えば、遺言がない場合、相続財産を分けるには、相続人全員の話し合いによる遺産分割協議が必要になります。
子がいない人が遺言を作成しなかった場合
遺言がない場合、相続財産を分けるには、相続人全員の話し合いである遺産分割協議が必要であることがお分かりいただけたかと思います。
ではここで、子がいない人が遺言を作成せずに亡くなった場合を考えてみます。
<事例>
被相続人Aさん
相続人Bさん(Aさんの妻)
相続人Cさん・Dさん・Eさん(Aさんの兄弟姉妹3人)
相続財産:Aさん名義の不動産(ABの自宅)
AさんとBさんは夫婦で、AさんとBさんの間には子はいません。Aさんの両親も既に他界しています。AさんにはC・D・Eの3人の兄弟姉妹がいます。
この場合、Aさんの相続人は、妻であるBさんと兄弟であるC・D・Eさんです。
そして、Aさんは遺言を作成していなかったので、相続財産である自宅を誰が相続するのかを決めるために相続人全員による遺産分割協議が必要になります。
「っえ?ABの自宅なんだから、妻であるBさんが相続するのが当然でしょ?」と思われる方も多いかもしれません。
しかし、これまでも繰り返し述べている通り、遺言がない場合に相続財産を分けるためには相続人全員による遺産分割協議が必要になります。
そこで、このケースのおける遺産分割協議のメンバーですが、妻BとC・D・Eの4人になります。
Aさんの生前から妻BとCDEさんのお付き合いなどがあればまだいいのですが、 配偶者の兄弟姉妹と全く面識がないことも多いのではないでしょうか。
Aさんが亡くなっただけでも大変な時に、面識もないCDEさんと連絡をとり、自宅の名義をBさんに変更できるように了解を取り付けなければならないのは、精神的にも負担が大きいと思われます。
さらに、連絡はとれたものの、CDEさんが相続人としての権利を主張してくる可能性もあります。
詳細は控えますが、CDEさんには法定相続分として各12分の1の権利があります。
そこで、例えば不動産の価値が3,600万円だとすれば各300万円分相当の相続財産の分配を求めてくる可能性もあります。
そこまででは無くても、いわゆるハンコ代と呼ばれる金銭を要求してくる可能性もあります。
このように、遺言がない場合、残されたBさんは自宅の名義を確保するために、CDEさんとの遺産分割協議に臨まなければなりません。
そして、その遺産分割協議では、必ずしもBさんの名義が確保できるとは限らず、金銭の要求があったり、そもそも遺産分割協議に応じてもらえずに、家庭裁判所での手続き等が生じる可能性もあります。
遺言を作成していた場合
一方、Aさんが遺言書を作成したいた場合はどうなるのでしょうか。
Aさんが「自宅を含めてすべての財産を妻・Bさんに相続させる」という内容の趣旨の遺言書を作成していたとします。
その場合、遺言書の記載によってBさんだけで自宅の名義変更などの相続手続をすることができます。
CDEさんから承諾や同意を得る必要はありません。
また、後日CDEさんから何か権利を主張されるようなこともありません。
※子や親などの相続人によっては遺言の内容によっては「遺留分」という権利を主張される場合があります。しかし、兄弟姉妹が相続人の場合、「遺留分」という権利を持っていません。
したがって、遺言書通りに相続手続を行って後日、相続人である兄弟姉妹から何か権利を主張されることはありません。
遺言を作成していなかったために
これまで見てきたように、子がいない方が亡くなった場合、遺言書を作成していなかったために、残された配偶者の方が苦労されたという事例が多いです。
一方、遺言書さえあれば、他の相続人のことを気にせずに相続手続を行うことができます。
遺言書作成のご相談
当事務所では、遺言書の作成についてご相談・ご依頼を承っております。
また、遺言書を作成する場合は、財産額によっては税理士との連携が必須になりますが、そのような場合であってもご希望に沿った税理士をご紹介させていただきます。
お気軽に当事務所までお問い合わせください。

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認知症と遺産分割協議
相続手続には遺産分割協議が必要なことが多い
不動産の名義変更や預貯金の解約など相続手続では、遺産分割協議(書)が必要なことが多いです。
その遺産分割協議は、相続人の全員の同意が必要とされています。
遺産分割協議(書)とは
亡くなった方(被相続人)が遺言書を作成していなかった場合、相続の方法は次の2パターンになります。
①民法が定めた法定相続分に従って相続人全員で相続する
②相続人全員の同意により①とは異なった相続人・割合で相続する
②のパターンの相続人全員による話し合いを「遺産分割協議」と呼んでいます。
遺産分割協議は、相続人全員が納得する限り、どのような内容でも構いません。
ポイントは、【相続人全員の合意】です。
例えば、父が亡くなり、相続人が母・子二人のような場合に、相続人全員である母・子二人が話し合って(遺産分割協議をして)、自宅・預貯金など父の相続財産すべてを母が相続する、というような取り決めに合意できれば、それで構いません。
その点、相続というと「法定相続分」が気になる方もいるかもしれません。
「法定」となっているので、あたかも法が定めた割合通りに分割をしなければならないような感じにもなってしまいますが、そこは、相続人全員が合意する限り、法定相続分にとらわれる必要はありません。
ちなみに、遺産分割協議について民法では「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」(民906条)と定められており、必ずしも法定相続分で分割しなければならないと定めているわけではありません。
また、相続人全員の話し合いを「遺産分割協議」と言いますが、民法では、その結果を必ずしも書面にすることは求められていません。
しかし、不動産の名義変更(相続登記)などでは結果を書面化した「遺産分割協議【書】」が必要とされていますし、相続登記が無い場合であっても、後日のために遺産分割協議【書】を作成することが多いと思います。
相続人が認知症だった場合
このように遺産分割協議には、相続人全員の合意が必要なのですが、相続人の中に高齢で認知症の方がいる場合もあります。
認知症の方は、「この遺産はほしい」「この遺産はいらない」「相続したい」「相続したくない」などという意思表示が困難なことが多いです。
つまり、認知症の方は実質的な遺産分割協議には参加することが難しいと考えられます。
とはいえ、そのような方(認知症の方)を除外して遺産分割協議をすることも出来ません。
その場合は、認知症の方に代わって遺産分割協議に参加する人を選ぶ必要があります。
その人が「成年後見人」です。
成年後見人の選任
相続人の中に意思表示が困難である認知症の方がいる場合は、成年後見人の選任を検討する必要があります。
成年後見人は、認知症の方の代理人になる人ですが、親族などが勝手に決めることはできません。
家庭裁判所の手続によって選任してもらう必要があります。
家庭裁判所に、申立書や医師の診断書など必要書類をそろえて申立をします。
申立から成年後見人が決まるまでに3ヶ月程度かかります。(ケースによって期間は異なります。)
成年後見人についての留意点は次のとおりです。
・申し立てた親族が望む人が成年後見人に選任されるとは限らない
→成年後見人は家庭裁判所が決める
・一度成年後見人が選任されると、基本的には一生涯、成年後見人が付いたままになる。
→遺産分割協議のためだけに選任されるわけではない。
・申立後に、申立を取り下げ(中止する)ことはできない。
・成年後見人に専門職(司法書士・弁護士等)が選任された場合は、家庭裁判所が決めた報酬を支払う必要がある、など
このように成年後見人を選任してもらい、認知症の方に代わって成年後見人が遺産分割協議に参加することとなります。
ちなみに、成年後見人が選任された認知症などの方を、成年被後見人といいます。
遺産分割協議と成年後見人
無事、成年後見人が選任されればいよいよ遺産分割協議なのですが、ここでも留意点があります。
それは、遺産分割協議の内容として、原則、成年被後見人の取得割合を法定相続分以上にする必要があるという点です。
例えば、父が亡くなり、その相続人として母・長男・長女の3人が相続人であったとします。
父の相続財産は、主に自宅の土地・建物であり、預貯金はごくわずかだったとします。
母は認知症により遺産分割についての意思表示をすることができません。
長男・長女としては、すべての財産を長男が相続した方が良いのではないかと考えています。
この事例の場合、仮に母が元気であれば相続人全員の合意によって、すべての財産を長男が相続することもできます。
しかし、母に成年後見人が選任された場合は、母の相続分として法定相続分以上の財産を確保する必要があります。
具体的には、母の法定相続分は2分の1なので、父の財産の2分の1以上を確保する必要があります。
そのため、この事例の場合、「長男がすべての財産を相続する」という内容の遺産分割協議は、基本的には認められないと考えられます。

千葉県習志野市東習志野にある「司法書士和久咲法務事務所」は、相続手続や遺言書作成など、相続や終活に関するご相談を専門に承っております。代表司法書士の景山悟は、平成29年の開業以来、200件以上の相続手続や20名以上の成年後見人業務に携わり、地域の皆様のお力になれるよう日々努めております。初回相談は無料ですので、相続や遺言、成年後見などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
遺産分割協議書への署名押印
遺産分割協議書には相続人の押印等が必要です。
押印する印鑑の種類、署名か記名か、遺産分割協議書の通数などについてご案内します。
遺産分割協議書への押印
遺産分割協議書には印鑑登録証明書の印鑑、いわゆる実印での押印が必要です。
認印や三文判のように見えても、市区町村に印鑑登録している印=印鑑登録証明書の印であれば、それが実印です。
一方、いくら実印ぽく見えても、印鑑登録していない印であればそれは実印ではありません。
必ず実印で押印するようにしてください。
捨印とは
遺産分割協議書への押印の際「捨印(すていん)」を求められることがあります。この場合、捨印という印鑑があるわけではなく、押印した実印をもう一か所押してくださいという意味です。
捨印は、後日、軽微な修正があった場合に訂正印の役割を果たします。
例えば、「東京都」と記載すべきところ「東京戸」となっていた場合、「戸」と「都」に修正するためには、本来、再作成か訂正印が必要であるところ、便宜捨印を使って修正することが認められています。
なお、捨印が悪用されないとも限りません。そのため、相続人間で信頼関係がある場合は便利ですが、争いがあるような場合は、捨印の使用は慎重にしてください。
氏名は署名か記名か?
遺産分割協議書には、実印の押印とともに各相続人の住所氏名を記載します。氏名については、相続人の自署(サイン)が望ましいですが、記名(印刷)でも構いません。
高齢者や手が不自由な方の場合、自書が難しいこともあり得ます。その場合は初めから住所氏名を印刷の上、実印を押印しても遺産分割協議書は有効です。
ただし、金融機関や相続手続を行う窓口によっては自署を求めることもあるようですので、各金融機関等に確認してください。
また、相続人間で争いがあるような場合は、後日の争いを避けるためにも、記名ではなく署名をすることをお勧めします。
なお、不動産登記(相続登記)では記名(印刷)であっても問題ありません。
連署か個別か?
遺産分割協議書には相続人全員が署名もしくは記名押印をする必要があります。
相続人が複数人ある場合は、連署(連名)になることが一般的です。ただ、各相続人が遠方に住んでおり一堂に会することが難しいこともあり得ます。その場合は、すくなくとも不動産登記(相続登記)では、同一内容の遺産分割協議書に各相続人が署名(記名)押印すればよいとされています。例えば、相続人が3名の場合、一通の遺産分割協議書に3名が連署(連名)してもよいですし、同一内容の遺産分割協議書を3通作成し、それぞれ個別に署名押印をしてもよいとされています。(参考先例・登記研究170号質疑応答3597)
遺産分割協議書の通数
最低1通(個別の場合は1セット)あれば、相続登記をはじめ各相続手続では遺産分割協議書の原本は返してもらうことができますので、使いまわすことができます。
ただし、相続人間の関係によっては、それぞれ1通ずつ手元に置いておきたいという要望もあると思います。
通数(セット数)は相続人間で話し合って決めるようにしてください。
相続人全員の参加・合意
遺産分割協議は相続人の全員が参加し、合意する必要あります。そのため遺産分割協議書への署名(記名)押印も相続人全員分が必要です。
相続人全員とは、たとえ相続人の中に行方不明で音信不通の方がいても、その方を除いて遺産分割協議を成立させることは出来ないという意味です。行方不明者の他に、財産はいらないといって非協力的な人、認知症により内容が理解できない人、未成年者なども同様です。それらの方を除いて遺産分割協議を行ってもそれは無効です。
この場合、不在者財産管理人(行方不明者)、成年後見人(認知症の方)、遺産分割調停・審判(非協力的な人)など別途の手続が必要となってきます。
相続人全員の署名がそろう見込みが立たない場合は、専門家への相談をお勧めします。

千葉県習志野市東習志野にある「司法書士和久咲法務事務所」は、相続手続や遺言書作成など、相続や終活に関するご相談を専門に承っております。代表司法書士の景山悟は、平成29年の開業以来、200件以上の相続手続や20名以上の成年後見人業務に携わり、地域の皆様のお力になれるよう日々努めております。初回相談は無料ですので、相続や遺言、成年後見などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。