共有の農地を単独所有にしたい

当事務所の周辺は住宅地であるため、田んぼや畑といった農地は多いとは言えません。(もちろん東京の都市部などと比べればありますが。。)

ところで、司法書士の中心業務の一つに不動産登記があります。
不動産登記とは、ざっくり言えば「不動産の名義変更」の手続です。
Aさんが所有している土地をBさんに売ったら、登記簿をAさんからBさんに名義を書き換えます。
これが不動産登記です。
売買の対象の土地が住宅地の場合、AさんとBさんの売買契約によって売ることができます。
当たり前と言えば当たり前かもしれません。

しかし、世の中にはこの当たり前が通用しない土地が存在します。
それが、「田」や「畑」といった農地です。
なぜ、農地は世の中の当たり前が通用しないのでしょうか?

それは、農地法という特別な法律があるからです。

農地法は、ざっくり言えば、農地を守りましょうという法律です。
むやみに農地を住宅地などに開発してしまうと、日本から農地が無くなってしまうかもしれません。
そのようなことにならないように、農地の売却にはお役所の許可が必要になっています。
たとえ、AさんとBさんの売買契約が成立していたとしても、お役所の許可がなければ、売買はできません。

このお役所の許可のことを「農地法の許可」などと呼んでいます。

さて、ここからが今回の本題なのですが、相続などにより取得した土地を共有者のうちの一人に贈与したいという相談がありました。
その土地の登記簿を確認するとA・B・Cの3名の共有状態でした。
この3名は親戚同士で、対象となる土地は現在使われていないので、B・Cの持分をAさんに贈与してAさんの単独所有にしたいという相談でした。

贈与であっても、売買と同様に、贈与契約があれば、B・Cの持分をAさんに贈与することができます。
ただし、当事務所で登記簿を確認してみると、今回の土地は「田んぼ」でした。
そうです。
当たり前が通用しない農地でした。

つまり、B・CとAさんの贈与契約だけではダメで、農地法の許可が必要となるケースでした。

じゃ、許可を取ればいいのでは?と思いますが、
ケースにもよるのですが、今回は農地法の許可を取得することが大変難しい土地でした。

そこで、農地法の許可はあきらめて別の方法を検討しました。

それが「持分放棄」です。

「放棄」とは言いますが、実は、不動産は原則として捨てること・放棄することはできません。
買った土地をもう使わないので、捨てます・放棄します、ということは出来ず、誰かにあげたり(贈与したり)、売ったりすることが出来なければ、ずっと所有者のままです。
※相続により取得した場合、一定の要件を満たす土地は、国が引き取る制度(相続土地国庫帰属制度)ができました。詳細は別の機会にしたいと思います。

ただし、それが不動産の「持分」であった場合は、事情が異なりなります。
今回のケースのように、共有であった場合は、その持分を放棄することができます。

持分を放棄すると、放棄をしていない共有者に持分が移動します。

今回の場合は、B・Cが持分を放棄することで、その持分がAに移動します。
そして、結果的にAが単独で所有することができ、目的を達成することができます。

あれ?
農地法はどこにいったのでしょうか?

実は、この持分放棄では農地法の許可は不要です。
似たようなことを行っているのに、贈与では必要で、持分放棄では不要・・。
なんだか不思議です。

すこしだけ理屈をお話すれば、売買や贈与は契約です。
契約とはAとB・Cの合意とも言えます。
お役所は、農地法の許可を使って、この合意に「ちょっと待ったー」をすることができるのです。
ちょっと待ったーによって合意をさせない、つまり売買や贈与は出来ないという理屈です。

一方、「放棄」はB・Cが「捨てる」行為であって、AとB・Cの合意ではありません。
農地法では「放棄(捨てる)」という行為に、「ちょっと待ったー」はできません。
そのため、「持分を放棄する」と言えば、農地であっても持分の放棄をすることができます。

そのため、今回の相談では、贈与ではなく、持分放棄をすることで、Aの単独所有とすることが出来ました。

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